関係者コメントの記録「レスキューを始める前に」

 市民ミュージアムの地下階は、屋内だけでも5,400㎡以上の面積を有し、収蔵庫の他に空調設備の心臓部とも言える機械室、非常用発電機室と並んで受変電設備のある電気室や受水槽など、ライフラインに直結する設備も被災しました。24時間体制で施設の維持管理や保安に従事する設備監視員と警備員の休憩室やロッカー等も地下階にありました。内水氾濫によって、急激に大量の雨水が流れ込んできた駐車場に面した場所には、設備監視員の仮眠室もありましたが、被災当時、設備監視員や警備員は収蔵庫前にて排水作業にあたり、その後上層階に避難したため、人的被害はありませんでした。

 被災後、天井近くまで雨水に浸かった地下階は、室内温度が30度を超え湿度が100%のところもあり、壁や床をはじめ、汚染された場所やモノからは日が経つに連れ、臭気が上がるようになりました。空気の流れの悪い場所では、天井にもカビが発生するような状況で、それら「被災ごみ」との闘いが始まったのです。
 収蔵品のレスキューを開始するには、収蔵庫から収蔵品を搬出するためのルートと仮置き場の確保が急務です。しかしながら、汚泥まみれでなかなか乾かない床、ひしゃげたブラインド、破損したガラス戸や机、歪んだ棚、閉じないロッカー、さらには倉庫で保管していた書類等の紙類、作業用具、制服、布団などの日用品まで、様々なものが混在し、それらは、雨水を含んだ状態の被災ごみとなって行く手を阻みます。片付けには多くの人手と時間が必要でした。
 被災ごみは一旦、搬出口に近く、天井が高い、床面積175㎡の荷解き梱包室に集められます。最初は、大まかに分類されていたのですが、片付けが進むに伴い、次から次へといろいろな物が集積され、ガラスや金属も混在するごみの山が数日で高く大きくなり、量に比例し臭気も強くなります。
 10月下旬、被災前より定期的に廃棄物処理をお願いしていた川崎市内の業者に搬出手段と廃棄処理についてご相談したところ、物をつかむことのできる手の形をしたようなアタッチメントが付いたローダークレーン車を直ぐに手配いただける事となり、11月初旬より排出作業に着手しました。人の手だけでは車への積み込みが難しかったごみの山が次々に取り除かれ、特にかさばって重い金属製のものなどは、潰しながら積載できるローダークレーン車のおかげで、搬出が迅速に進みました。しかし、残念な事にアームは、荷解き梱包室の中ほどまでしか届かず、水を含んだ異臭のするごみの山を部屋の奥からアームの届く位置まで移動する作業は人力に頼るほかありませんでした。
 大量の被災ごみを迅速に処理することは、安全に円滑なレスキューを進めるためにも不可欠で、より早い復旧につながります。
 現在までに排出された被災ごみは、ほぼ建材を含まない不燃物だけで80tを超えました。
 被災ごみの片付けにご協力いただきました皆様に改めて御礼申し上げます。

(掲載写真:ローダークレーン車による作業の様子 撮影日:2019年‎11月‎7‎日)

川崎市市民ミュージアム 総務・広報部門 総務主任(兼)施設管理担当 澤口 恭子