自然災害と博物館


 令和元年10月12日、当館は台風第19号による浸水被害を受けました。地階の収蔵庫内に保管されていた23万点近い資料のほとんどが被災し、維持管理機能も完全に停止、施設を閉鎖せざるを得ない事態に陥ってしまいました。
 排水作業後、川崎市から文化庁に対して被災収蔵資料救援等の技術的支援の要請が行われ、すぐさま文化庁文化財等災害対策委員会による支援の実施が決定されました。国立文化財機構等を通じて専門家の方々の派遣が始まり、連日、被災収蔵品のレスキュー活動に多くの方々がご参加くださいました。約半年間に亘る作業の後、被災資料はそのほとんどを地階の収蔵庫から救出することができました。ここに至るには、ひとえにレスキュー活動にご参加ご協力いただいた皆様のご支援の賜物と心より感謝を申し上げます。
 令和2年度も引きつづき休館状態が続いております。折しも新型コロナ禍も影響し、30年余りの活動のなかでも最大級の危機にありますが、被災した資料や美術作品を1点でも多く良い状態に近づけ元に復すよう努めております。
 近年、世界的な異常気象による自然災害の多発により、社会も経済も甚大な被害を受けるようになってきました。そうしたなかで、このたびの収蔵資料の被災は博物館活動の今後のあり方や意味について考え直す機会であることを私たちに知らせているのかも知れません。
 歴史・民俗資料や美術作品は、それらが社会に属していた当時の記憶や作者の思いなどを記憶し、現代にまで語り伝える貴重な財産であることは言うまでもありません。数十年前にそれらを使っていた人たちがいました。それを描いた画家もいました。博物館や美術館では、そうした実物資料や美術作品を前にして当時の人々や社会に思いを馳せることができます。かけがえのない時間ではないでしょうか。収蔵資料や作品が失われることは私たちの歴史と記憶が失われることをも意味しています。
 遠くない将来、自然災害によって被災した資料や美術品のレスキューや応急処置、修復、さらに修復後の資料のあり方や利活用に関することなどが博物館活動のなかに加えられるようになるかも知れません。併せて、私たちは博物館施設と被災した資料や作品は何のためにあるのかという根本的な問題を見据え、社会に対してどのような貢献ができるのかを考えていかなければなりません。

 最後になりましたが、今後とも被災資料や美術作品の応急処置や修復などの活動に対し、皆様のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げますとともに、これまでレスキュー活動をご支援くださった多くの関係各位に対し、あらためて心より御礼を申し上げます。


令和2年6月
館長・大野正勝