関係者コメントの記録「元独立行政法人国立文化財機構文化財防災ネットワーク推進室長 救出活動のための体制構築と皆のがんばり」

川崎市市民ミュージアムの被災は、地下収蔵庫という閉じた空間で23万点もの収蔵品が水没し、水が引いた後には瞬く間にカビが発生して、館外にそのように汚染されたものを持ち出し処置・保管をする場所が確保できないため、館内の限られたスペースで、作業者の健康被害にも注意を配りながら実施しなければならない、というものでした。
そして、文化庁による支援の表明、国立文化財機構を含む文化遺産防災ネットワーク参画団体やそれ以外の神奈川県博物館協会をはじめとする数多くの団体・専門家たちによる多分野・多人数の救援活動を、どのように受け入れ、さらに中長期的な計画を立案し、被災した収蔵品をどうやって回復していくか、ということを考える必要がありました。

このような過酷な状況で、川崎市の職員と川崎市市民ミュージアムのスタッフが一丸となり、外部団体からの指導助言を冷静に受け止め体制を構築し、作業を行ってきました。川崎市市民ミュージアムは2017年に指定管理者制度へ移行して経営の体制が変わっており、またその際に多くの経験のある中堅学芸員が退職していて、現在の学芸員のほとんどが任期付き雇用で経験の浅い若い人たちでした。しかし彼らが、自分の任期中にはミュージアムの再開が見込めないという状況において、どんどん力強くなっていく様子はとても印象的でした。

さらに、合理的な経営によるミュージアムの採算的な成績向上のために指定管理者となったアクティオ・東急コミュニティー共同事業体が、この事態に対して、まさに企業ならではの対応能力を発揮し川崎市市民ミュージアムを牽引したことは、今回の活動において特筆すべきです。指定管理という制度にはいろいろな課題があると聞いていますが、この危機的状況に直面しながら、論理的で系統立った作業計画を構築し、それを日々着々と実現していった様子は、緊急時対応のあるべき姿を良く示すものであったと思います。

(掲載写真:外部支援団体との打ち合わせの様子 撮影日:2020年3月12日)

奈良大学教授(元独立行政法人国立文化財機構文化財防災ネットワーク推進室長) 岡田健 
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