関係者コメントの記録「東京国立近代美術館 使命の再確認」

僕は主に、額装されたままカビの発生したポスター類の救出に従事しました。ひたすら梱包箱と額縁を壊し、作品を慎重に剥がしてゆく作業は、注意を要するという以上にいたたまれない気持ちに襲われました。電源を喪失した時刻を指して止まった時計と、カビの臭い、そして手に感じたぬめりを強く記憶しています。後にこの被災を創作に転化した(ご自身の被災作品を撮影して新作とした)石内都さんの新作を西市宮大谷記念美術館の個展で拝見する機会があり、レスキュー体験を絡めた展評を雑誌『明日の友』252号(2021年6月)に寄稿しました。被害のネガティブな側面のみを見ていた自分にとって、石内さんのご活動は美術における記録と創造の機能や使命を教えてくれるものでした。今後の修復が進むことと作品があらためて公開される場が設けられることを望むばかりですが、収蔵品の状況把握と情報引き継ぎ等に関しては、単なる自然災害ということはできない組織的な問題もあったと伺っています。コレクションの管理という使命に無関係な博物館施設はありません。被災を経たからこそ、長期的な観点による安定した運営モデルが提示されることを願う次第です。
(掲載写真:グラフィック作品レスキューの様子)

東京国立近代美術館主任研究員(作業時は東京ステーションギャラリー学芸員)成相肇
https://www.momat.go.jp/