関係者コメントの記録「一般社団法人国宝修理装潢師連盟 川崎市市民ミュージアム被災収蔵品レスキューに参加して」

収蔵品の剥離作業の様子

私は初動時より紙を主体とする収蔵品のレスキューに関わらせて頂きました。被害のご報告を受けて現地に伺った際は、地下にはまだ水が残り、電気設備の故障のため照明もままならない状況でした。被災した作品を安定した状態にすべく修理技術の専門家として現場に入りましたが、膨大な作品数や大量に発生したカビを目の当たりにして茫然となった記憶がございます。修理の現場に身を置き25年余り経つ中で、これほど過酷な状況の作品と対峙するのは初めての経験でした。

水に濡れただけでも紙は不安定になりますが、大多数の作品はカビやバクテリアの影響も受けてより深刻な状態となっていました。時間経過とともにみるみる劣化が進行していく作品を前に、自身の経験から何ができるのか、目の前の作品に下した一つ一つの判断の成否に自問自答する日々を過ごした事が思い出されます。一方で全国からレスキューに参加された多くの方々にお会いできたことは、文化財の持つ力が人々を動かしている事を実感する機会となりました。

今も地上へ上げられた作品に対するレスキュー作業は継続されていますが、救出された数十万点の作品ができる限り被災前の状態となる事を祈念致します。

(掲載写真:収蔵品の剥離作業の様子)

一般社団法人国宝修理装潢師連盟 
監事/危機管理災害対策室 文化財防災ネットワーク担当 池田和彦 
http://www.kokuhoshuri.or.jp/