2015年09月07日

「木村伊兵衛写真賞40周年記念展」内覧会

写真界の芥川賞といわれている木村伊兵衛賞は、プロもアマも写真歴が無い人も誰でも受賞できる可能性があるそうです。今や、デジカメ、スマホ、携帯で誰でも簡単にきれいな写真を撮れ、日本人全員がフォトグラファーです。
でも受賞した作品と私たちが撮る写真とはどこが違うのでしょうか?

 

8月15日(土)「木村伊兵衛写真賞40周年記念展」内覧会に集まったボランティア6名に、林司学芸員が「受賞した作品の見どころは、実はここなんです」と、広い会場を歩きながら平易な言葉で楽しく解説して下さいました。

 

記念展の会場に入ってすぐ、下薗詠子さんの巨大なモノクロ写真。笑顔で並んで立った老夫婦の「最期にふたりが手をつないだ日(母方の祖父母)」が目に入って来ました。
深いしわのある屈託ない晴れた表情で普段着の老夫婦。 仲の良い夫婦の写真は誰でも撮れそう。私でも撮れそう。だけどこの写真は何か違う、強いインパクトを受けます。何故なんだろう?

 

下薗詠子さんの巨大なモノクロ写真
下薗詠子さんの巨大なモノクロ写真

 

林さんが説明してくれました。
「この写真を見ていると、数十年間のご夫婦の喜びと苦労、人生、体験、悩みの状況、背景などが想像できます。お二人を撮影したのが孫という家族だからなのでしょう。写真と「会話」できるからです」。 ウムなるほどなるほど。納得。

 

次の部屋に進むと百々新さんの大小数十枚のカラー写真「対岸」シリーズです。 カスピ海を囲む沿岸5国の街や人々のスナップショット。
林さんが「撮影した百々さんが立つ自岸側の生活と目に見えない広いカスピ海の対岸を想像しながら対比しています。風土や雰囲気が伝わって来ます」。
私自身カスピ海沿岸諸国に出張した時、地元の人たちの暮らしやその時の会話などを思い出させてくれました。

 

百々新さんの「対岸」シリーズ
百々新さんの「対岸」シリーズ

 

次いで会場順路の最後の大きなスペースに川島小鳥さんの数十枚のカラー写真が貼られています。B5ほどの小さな写真から一畳ほどの大きさまでサイズがさまざま。しかも他の写真とは異なり額縁も台紙もありません。
よく見ると台湾の若者たちで、視点が優しく女性っぽく思えます。写真家の川島小鳥という名前で女性と思っていましたが、男性でした。

 

どう並べるか苦心し川島小鳥さんの写真はどう並べるか苦心しました
川島小鳥さんの写真はどう並べるか苦心しました

 

林さんが、「川島小鳥さんは最近発行した写真本がよく売れている人気がある男性写真家です。普通の生活の瞬間を切り取ったスナップした写真が多く、カップルが可愛くお洒落でキュンと来ます」「今回これだけの多くの写真をどう展示するのか、4メートルの天井までどこにどう並べるか、苦心しました」

 

展示会場を巡回したあと、ボランティアの素人カメラマン&ウーマンの質問に、林さんが、カメラ、フィルム、歴史、写真家などを明快に即答してくださいました。さすが林さんは写真のオーソリティと再認識した一日でした。

 

どんな質問にも明快に即答
どんな質問にも明快に即答

 

~「木村伊兵衛写真賞40周年記念展」のご紹介~


1990年代、公の機関として唯一、木村伊兵衛賞の受賞写真を収集していた川崎市市民ミュージアムに、朝日新聞社から展覧会の提案があり、1999年6月「木村伊兵衛写真賞軌跡1975~1999」を開催したところ好評を得ました。
以降、30周年(2005)、35周年(2010)と5年毎に記念展を行ったのに続き、今回の展示は40周年記念です。
今回もマスコミで広く紹介されており、週末は一日に200人以上の観覧者が来られる人気のある企画展です。

 

(美術館部門展示ガイドグループ 坂田)

 

*2014年3月までのボランティア活動の様子は、こちらでご覧いただけます。

http://ameblo.jp/kawasakimuseum2010/