皆さんは「コンサバター」を知っていますか?
日本語では「保存修復士」や「修復家」、「修理技術者」といった言葉で表されます。
これらの肩書きに明確な定義はありませんが、主に文化財などを保護し、将来的に良い状態で残せるようにする作業を行う人のことを指します。今回はこの「コンサバター」という職業を取り上げ、文化財の修復をテーマにしたワークショップを開催しました。といっても、修復の知識や技術を身に付けることが目的ではありません。目の前にある物をよく観察することに加えて、手に持った時に感じられる重さや感触を元に、想像したりじっくり考えたりする楽しさを家族で体験することを目的にした内容です。
講師にお招きしたのは、オブジェクト・コンサバター(主に立体物を扱う保存修復士)の森尾さゆりさん。森尾先生は、展示ケースの中の物にさわって見たいと思ったことをきっかけに保存修復の仕事に興味を持たれたそう。ロンドンで修復を学び、現地の館でインターン(仕事を体験すること)や実際に勤務した後に帰国。現在は大学に勤務しながら、保存修復をテーマにしたワークショップを行っています。
当日、会場である川崎市生涯学習プラザの一室にはたくさんの物が並びました。
こちらは館で持っている資料。市内にお住まいの方が、昭和期に使用していた様々な道具をくださったのです。
▲左側にあるのは和菓子の型。右側に写っているのは前掛け。くださった方は川崎市にお住まいですが、横浜の鶴見区にあるお店の前掛けを使っていたのかもしれません。
▲この道具は森尾先生が修復の作業をする時に使っている道具。整然と並んだ様子は作業場そのもの。見ているだけでワクワク…。
まずは森尾先生のお話。物を直すってどんなことでしょう?先生がこれまでに取り組んできたお仕事などを紹介してもらいながら考えます。
続いて、みんなで観察。昔、実際に使われていた鯉のぼりが登場しました。大人チームと子どもチームに分かれて、発見したことを言っていきます。「目の部分は特に色があせてる」「ここは色が落ちないで残ってるね」「ヒレの部分は手で縫い付けた跡がある」など、色々な発見があります。
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だんだん近づいて、最後はルーペを使って細かい部分も観察しました。
続いては、親子で観察。机に置いてある生活道具から気になるものを一つ選んで、気が付いたことや不思議だなと思うことを付箋に書いて貼っていきます。
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▲よく見ていくと、発見がたくさん。何気なく見るのと、意識的に見るのとでは気づくこともかなり変わります。
ここで森尾先生が持ってきてくれた「デジタルマイクロスコープ」が登場!レンズを当てた部分を、肉眼の20~30倍くらいに拡大して見ることができます。
目で見るのとは全く違う世界に、みんな興味津々。
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▲細い棒がデジタルマイクロスコープ。先端にレンズが付いていて、拡大した映像をスマートフォンに映し出すことができます。
続いてはクリーニングについて。
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この小さな掃除機はミュージアムクリーナーといって、美術品などの文化財についた汚れを落とす専用の掃除機です。今回は汚れの代わりにコーヒーの粉を撒きました。途中には布や石などの障害物が。刷毛を使って、丁寧に吸い取っていきます。みんなで交代しながら、きれいに吸い取ることができました。
最後に、森尾先生が用意してくれた石膏のオブジェや板絵を、濡らした綿棒でクリーニングする作業に挑戦。綿棒も自分で作り、今日体験した色々な作業を思い出しながらどんな風にきれいにするか考えます。家族で話しながら1つの物をクリーニングしたり、一人で取り組んだり。力を入れすぎると作品を傷つけてしまいますが、みんな丁寧に作業していきます。
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10分間位のクリーニングで、かなりきれいになりました。
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クリーニング中
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クリーニング後
みんなの成果を順番に見ながら、気を付けたところや難しかったところを話していきます。「もっとクリーニングしたい」と話す子も。
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最後に、市民ミュージアムについても紹介。ミュージアムは2019年に台風で収蔵庫が浸水、収蔵品の多くが水に濡れるなどの被害が出ました。色が変わるなど、見た目が変わってしまった作品もありますが、様々な専門家の手を借りてできる限り元の状態に近づけられるように処置を施しています。実際にクリーニングを体験した後ということもあり、「こんなにきれいになるんだ!」という驚きをもった方も多かったように思います。
▲市民ミュージアムの被災した収蔵品について、被災する前、被災後、修復後の写真を見せながら紹介しているところ
ワークショップの後も残って森尾先生の修復の道具を見たり、コンサバターのお仕事について質問する人もいました。コンサバターが将来の仕事の候補になった人もいるかも…?
スマートフォンやパソコンなど、平面の画面に映し出される2次元の画像にすっかり慣れている私たちですが、1つの物を表や裏、斜めなど色々な角度からじっくり見たり、手に持ったりして重さや感触を確かめることで分かることはぐっと増えます。時間をかけて見たものには、何か特別な親近感が湧くのではないでしょうか。このワークショップが、物と会話するように観察したり、触って感じたことから様々な想像を広げる楽しさを感じられる体験になっていたらいいなと思います。
(教育普及部門 杉浦)