2025年09月10日

旧川崎市市民ミュージアムお別れイベント「光と音とアートな館謝祭サンクスフェスタ」を開催しました

 令和元年東日本台風による被災後、突然に扉が閉ざされてしまった旧施設。寂しい思いをされていた市民の皆さんも少なくないと思います。旧施設は今年度中に解体予定で、その前にきちんとお別れをするためにこのイベントを開催しました。

▲普段は閉じられているバリケードを開放!

前日までの暖かな陽気と打って変わって、当日はあいにくの冷たい雨。しかも強風という悪天候でしたが、それでも約800人の皆さんが会場に足を運んでくださいました。

 会場内では、荒天のため規模は縮小したものの、会場を光や音、映像で彩る「光と音のページェント」、市民ミュージアムの歴代のチラシを展示した「思い出のタイムライン」、市民ミュージアムへのメッセージや思い出を、旧施設の窓ガラスに直接書き込む「思い出・感謝のメッセージコーナー」など、たくさんのイベントを実施。旧施設の外壁タイルに思い出を書いて持ち帰るワークショップ「こねくとするC~いま、みらい、わたし、あなた~」には100人近くが参加して、中には、「この建物の建設に関わった」と懐かしむ方もいらっしゃいました。

▲「思い出のタイムライン」:歴代展覧会チラシから100枚近くを紹介

そして!このたびイベント当日の様子を記録した動画を公開しました。市民の皆さんが、旧施設に対してそれぞれのストーリーを持っていることが分かって、思わず涙してしまいます。是非ご覧ください。

▲イベント担当(プロジェクトM²)の当館学芸員:渡部も熱い想いを語っています。

イベント当日の様子は動画をご覧いただくとして、ここでは準備から当日までのウラ話を紹介いたします。実はここにもおもしろいストーリーが生まれていました。
お別れイベントではあるものの、当初から目指していたのは、「お別れのような寂しいイメージではなく、これまでの感謝と新しいミュージアムを期待させるような、賑やかなお祭り的イベント」にすること。なので、準備段階から(作業は苦しくとも)スタッフもわくわくする気持ちで進めていました。

▲ワークショップで使う外壁タイルを外して剥き出しになった面を、人工芝で養生!外壁にすごく馴染んで、初めからこうだった?と思うほど。

▲キットパスで旧施設のガラス面に試し書き中のスタッフ。来場者の手の届かない、高い位置に(ちゃんとヘルメットをかぶって)書いています。しかしイベント当日、書いてすぐだと、キットパスが雨で流れてしまうことが判明。急遽、チラシ展示をしていた屋根のあるガラス面に書いてもらうことになったのでした。

「こねくとするC~いま、みらい、わたし、あなた~」のワークショップで使うタイルは、安全のために周囲を業者さんに削ってもらったのですが…。

▲剥がしただけのタイルで制作したサンプル。このままだと周囲がツンツンで、相当気を付けないと怪我することが予想されました。

ウラ話①【タイル納品のための下見の際の、担当と業者さんの会話@旧施設】
(担当)この外壁のタイルを剥がしたので、持っても手が切れないように周囲を削ってほしいんです。
(業者さんA)これ、剥がしたのはどこかの業者さん?
(担当)いえ、私たちミュージアムのスタッフです。
(業者さんA)そ、そうなの…。
(担当)すっごい筋肉痛になったんですよねー(笑)。でもいいワークショップにしたいと思って、みんなで頑張りました!
(業者さんB)おーい、ここの地面のタイル、オレがはったんだぞ!
(担当)えええっー!本当ですか?!30年前に?ここで作業されたんですか?
(業者さんB)そうだよ、当時オレ、建設会社の××組にいたから。張るの大変だったよ~。そうか、ここ解体されるのか、寂しいな。
(業者さんA)ここの作業したんっすか!これ、すごいっすね。さすがだなぁ~。

▲旧施設エントランス前の足元のタイル。タイルが斜めに組み合わされているのが分かります。これは多摩川の水の流れを表したデザインだそう。確かに複雑で設置作業は大変だったかも。

たまたまですが、依頼した業者の作業員さんのひとりが、なんと旧施設の建設時に、エントランス付近のタイルを張った方だったのです。斜めのデザインだったので、作業は難しかったそう。その作業をしたことを別の作業員さんが聞いて「いい仕事をしたな」と感心されたようでした。旧施設の最初と最後にこうやって関わる方もいらっしゃるんですね。不思議!奇跡!

その他にも…

ウラ話②【「思い出のフォトブース」顔出しパネルのモチーフの相談@ミュージアム事務所】
(担当A)顔出しパネル、河童は絶対ですよね?
(担当B)そりゃそうでしょ。河童のくちばしも作ってもいいよね。他どうします?バンサイくん?
(担当C)バンザイくんって、ミュージアムのロゴ?自分はお手上げくんって呼んでたよ…。30年も手を上げ続けているのに、名無しはかわいそうだね。
(担当A)確かに…これを機になまえ募集してみます? とにかくロゴも候補でいいですね。
(担当D)ねぇねぇ!これどう?ミュージアムといえばこれでしょ?
(担当A、B、C)おおおー、でた!トーマス転炉!
(担当D)顔出しは鉄が溶けて出てくるところに開けるね~。
(担当A、B、C)溶けちゃうんかーい!

▲一番手前がトーマス転炉の顔出しパネル(なんと実現したのです)。来場者アンケートには、「顔出しパネルがまさかのトーマス転炉とカッパだったのはビックリでした…」「トーマスの顔出しのアイディアがよかった!」という声もあって、なかなか好評だったことが分かります。

ウラ話③【入場ゲートのバルーン試作を見ながらのスタッフの会話@旧施設】
(担当A)いいですね~!風船ってやっぱワクワクしますよね。私も作ってみたい!
(担当B)あっ!これバンザイくん(ミュージアムロゴ)のかたち?
(担当A)そうかも~。うーん、でもこれなんか色っぽすぎません?太ももの感じがリアルっていうか…。足の角度も、なんかちょっと…(苦笑)。
(担当B)刺激が強いよねぇ。このままだと入場はR18指定になっちゃう(笑)。 〇〇さーん! これ、飾って大丈夫ですかね?
(バルーン担当)やっぱりそう思う?もう少し考えるわ…

▲黒い人型がミュージアムのロゴを象ったバルーン。色っぽすぎる試作品はここではお見せできません(笑)!

スタッフにとっても思い出が詰まった旧施設。楽しく準備をしながらも、たくさんの思い出が蘇って、ついつい手をとめて語らってしまうことも。準備が間に合って、皆さんと一緒にお別れができて本当に良かったです。

現在、市民ミュージアムは新たなミュージアムの開館に向けて、市民の方々の意見を取り入れながら準備を進めています。同時に、被災した収蔵品のレスキューを続けながら、市内施設やオンラインを活用して、展覧会やワークショップを行っています。開館までにはまだ時間を要しますが、こうしたイベントを通して、新たな思い出を皆さんと作っていきたいと思います。

(プロジェクトM² 奈良本)