2022年12月27日

【教育普及】「言葉で旅するアーカイブ ~目の見えない人と見える人が川崎の風景を語る~」を開催しました!

ここ数年、オンラインでやりとりをする機会がぐっと増えたのではないでしょうか。仕事の会議やお友達との会話、さらには飲み会も??直接会えない人と、お互いの顔を見ながらリアルタイムでやりとりができるのはとっても便利ですよね。当館では、2022年12月3日(土)と10日(土)の2日間、そんなオンライン会議システム(Zoom)を利用した鑑賞ワークショップを開催しました。

タイトルは、「言葉で旅するアーカイブ ~目の見えない人と見える人が川崎の風景を語る~」。視覚に障害のある人とない人が、一緒に川崎の風景を見るワークショップです。鑑賞するのは、昭和期にアマチュアカメラマン達が撮影した川崎の風景写真。これは昭和32年に始まった「川崎市写真コンクール」という公募展の出品写真で、当館では、昭和期に応募された約2,000枚を歴史分野の資料として収蔵しています。例えば下の2枚は、多摩川や川崎港で撮影したものです。当時の雰囲気が伝わってきますね。


《多摩川にて》昭和40(1965)年川崎市写真コンクール応募作品



《市営埠頭にて》昭和45(1970)年川崎市写真コンクール応募写真


ワークショップは1回につき2時間。全ての写真を見ることはとてもできないので、今回ご協力いただいた「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」の皆さんと打ち合わせを重ね、12月3日は「川崎港から始まる旅」編、10日は「多摩川から始まる旅」編として、川崎のシンボルでもある場所を撮影した写真と、川崎大師や海沿いの工場といった川崎らしさを感じられる写真を約20枚選びました。

実は、当館でオンライン形式のワークショップを実施するのは今回が初めて。どんな方が申し込んでくださるかな・・と思っていたところ、宮城県や京都府、山形県など全国各地から申し込みがありました!そしてもちろん、川崎市で生まれ育った方もいらっしゃいます。年代も様々だったため、当日、鑑賞前に投げかけた「川崎のイメージって?」という問いかけには、「教科書で見た、工業地帯のイメージ」という方や、「学生時代に多摩川沿いをランニングした思い出があります」などの回答が。続いて、自己紹介や、こんな感じで見ていきましょう、といったアナウンスの後、いよいよ鑑賞スタート!まずは見える人が写っているものを話し、続けて、見えない人や他の参加者が気になるところ、不思議だと思うところなどを話していきます。各回ともに5枚の写真を見たので、ここではその一部をご紹介します。


《昼休の勝棋》撮影年不明 川崎市写真コンクール応募写真


例えば上の写真。川崎市内のどこで撮影されたのか、具体的な場所は分かっていません。はじめ、ここは路上?地面にレールがあるから、工場の敷地内?など疑問が出たのですが、当時の様子を知っている方から、川崎は交通事故が多かったので路上で将棋をしていたとは考えにくく、工場の中だと思うといったコメントが出ました‥‥なるほど!当時の様子をふまえると、風景がまた違って見えてきます。さらに、「(最近は)こんな風にお昼休みに大勢で何かすることってないよね?」といった話題や、「撮影した人はこの人達の仕事仲間なのでは…?」など、細かな部分に目を向けた感想も出ました。

写真は、目の前にある光景を留めることのできる、記録性の高い媒体(メディア)です。今回取り上げた写真も当館では「資料=アーカイブ」として位置付けられており、かつての川崎を知ることができる情報源ともいえますが、写り込んだ人々の表情や動きや差し込む光の加減などから、単なる「資料」「情報」の言葉に収まりきらない当時の雰囲気が感じられたり、今の私たちに共通する部分を見つけて親しみを感じるのではないでしょうか。このワークショップを計画した時に考えたことは、目の見えない人と見える人が一緒に鑑賞するだけでなく、まるで旅をするように、あちこちに目を向けること自体を楽しみながら言葉にしたらどんな景色に出会うだろう、「資料」をあえて情報として見ないことで、様々な発見があるのでは…?といったことでした。

終了後、参加してくださった方からは「オンラインで知らない人たちと鑑賞する楽しみを知りました」、「(昭和の川崎は)自分にとってなかなか馴染みの少ない場所でありながらも、参加者同士で話すなかで自分もその場所を知っているような、懐かしさのようなものが湧いてきた」といった感想が寄せられました。

ちなみに、上の写真はワークショップ中の様子。
手前に座っているのは、「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」の林さんです。当日はご来館いただき、何かあったら一緒に対応できるような体制を整えました。そして、画面奥の方をよ~く見ると、もう1名、座っているのが見えますでしょうか。こちらは当館の職員です。お互いの声をマイクが拾わないよう、別々の部屋からパソコンに向かっていました。トラブルがあった時はすぐに合図できるよう、ガラス越しに様子を確認できる位置で進行していたのです。

当館は2019年の令和元年東日本台風で被災しましたが、以前は定期的に視覚障害のある方との鑑賞会を館内で実施していました。実に3年ぶりの開催となりましたが、今後も継続していきたいと考えています。こういった鑑賞に興味を持った皆さん、次回はぜひご参加くださいね!

教育普及担当 杉浦