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ARTIST TALK_作家トーク

作家トークNo.5 北野謙(3)「あらゆる人感、あらゆるもの感から僕はものを見たいんです」

—今回は、一番新しい作品も展示していただきました。「one day」ですね。新作についてお話をうかがいたいのですが…

北野:これはごくごく最近、去年からです。この先どういう作品になっていくかわからないですけれど、毎度「our face」ばかりでなく、何か新しいのを出したいと思いまして始めたばかりの作品を今回出しました。

ーどういう形で撮られているんですか?

北野:タイトル「one day」は「一日」、「ある日」という言葉をつけていますけれども、文字通り一つの場所の一日を一枚で撮っている写真です。厳密に24時間とか、日の出から日没までシャッターが開いているわけではないんですけれども、ほぼ朝その場所が動き出す、新宿のデパートが開くちょっと前から日没までとか、だいたい夏場で8時間くらい、冬場で6時間くらい、だいたい何となく一日シャッターを開けて撮っています。

ー(江ノ島の写真の前に立ちながら)ここにじーっといるわけですよね、北野さんがね。怪しまれないんですか?

北野:怪しまれると思いますよ。江ノ島撮っている時なんか、水着撮っていますから。

—カメラのフォーマットはどれくらいの大きさですか?

北野:4×5ですね。

—そしたらかなり目立ちますよね。大きめの三脚を立てて。

北野:振動とか怖いですし、フィルムのフォルダですとか、カメラの金属のつなぎ目からの光で感光しちゃうんですね。ですから厳重に袋で包んで、フードで周りを囲って、結構物々しいです。これも、「our face」とちょっと似ているところがあるんですけれども。

—どういうところでしょう?

北野:長い時間をかけて一つの場所を1枚に撮っている。今、9つのイメージを出していますけれども、できればもっともっとたくさんの量が必要な写真だと思っています。たぶん無理ですけれども、できれば365カット、365日で一冊本を作るくらいな気持ちでいます。というのは「our face」もそうなんですけれども、あらゆる人感、あらゆるもの感から僕はものを見たいんですね。富士山にもついて行くし、あの洞窟は沖縄の摩文仁なんですけれども、実際僕の三脚の周りにもちょっと掘れば遺骨が埋まっていて、こないだ集骨作業をなさっていましたけれども、そのようなところにもこの時点でも時間が流れているということを当たり前に引き受けて、日々暮らしたいというのがあります。ですから、いろいろな場所の一日、一日って皆さんもっている尺度だと思うんで、ポンと展示しやすいと思うんですね。ですから、本当にこうしている間に時間が過ぎていくということを、たくさん繋ぐような作業をしていきたいなと思っています。

—苦労して撮影されて帰って現像してみると、写っていなかったり、トラブッてたりということもありますか?

北野:多いです。一日寒い中で撮って、ブレてたり、光が漏っていたりすると何ていうのか(笑)…切ないです。

—今回、展示されているのはよく知られている場所ですね。江ノ島だったり、富士山だったり。でも名所旧跡という場所だけに捉われずに、一日をっていうことですか?お話だと。

北野:そうですね。最大公約数的なところを訪ねることが多いんですけれども、やがては東京の一人暮らしの部屋だったり、あるいはうちの娘の勉強机の上を一日撮るとか、一つの食卓のテレビだけを撮るとか、あるいは芸術家のアトリエの一日とか、産婦人科の保育室の一日とか、本当にいろいろな一日を連ねていきたいと思います。

—いろいろな生活の場面と言ってもいいんですか。

北野:そうです。やっぱり写真はどうしても選択するアートってなるんですけれども、キザになんですけれども、なるべくあらゆるものをこちらから何かの尺度で選ぶということからものを見ちゃうと、どうしても偏りで見えなくなっちゃうのが多いですよね。だから、できる限り自分の中の扉を開いて、いろいろなところに行けるようなコンディションを作っていきたいです。

—今、大きな二つのプロジェクトをやっているという感じですね。「one day」を365日撮るとしたら大変な作業ですし、こちらも海外のいろいろな場所でも撮りたいとおっしゃっていますので。海外のひとも、ワールドカップの時の外人の方という意味では、日韓ワールドカップをやった時のイングランドサポーターか、写真集の中に収まっていますけれども。

北野:この外国の人たちには、出来上がったのを見せられていないですね。見せてみたいのですが。

—私は、去年ロンドンのテイトモダンで「写真ゲーム」というテーマで講演した時に、このイングランドサポーターの作品をスライドで見せましたら結構うけましたよ。

北野:これは長居スタジアム、前々回のワールドカップの時に行って撮ったんですけれども、試合開始前にサポーターの人に声を掛けて撮りました。ほぼ全員酔っ払っていましたけれども(笑)。「お前も飲めって」。

—海外の人たちを撮って、このシリーズを広げていくというのは面白いアイデアと思います。海外の人たちが、どういうふうにそれに対してリアクションするかという…。

北野:「our face」、「one day」なんかもそうですけれども、どちらかというと一滴の中で世界を撮るというか、一の中に全体を見る、全体を見るような行為の中に一つを見ていくというか、ちょっと仏教的というか、東洋的な考え方です。

—展示作品のなかには、お坊さんもいらっしゃいますしね。

北野:真言密教の人は、すごくよくわかってくれました。弘法大師の考えに似ているって。重なりの中に見ていくっていうのは。東洋的だとよく言われるんですけれども、こういう一つ一つの個も大切に受け止めた上で、大きなイメージを構築していくという方法は、たぶん西洋とかキリスト教の人にも、ちょっとわかってもらえるんじゃないかなと期待はしているんです。まだ、わからないんですけれども。いろいろな人に会って作品を作って行きたいと思います。

—制作にはかなりの時間が必要でしょうが、これから実現するのが楽しみです。

(聞き手 当館学芸員 深川雅文)

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