ごあいさつ
このたび川崎市市民ミュージアムは「kanōn 原美樹子」展を開催いたします。
当館は令和元年東日本台風で被災し休館を続けております。館内で展覧会やイベントを実施できない状況のなか、当館の活動を発信する試みとして、昨年度からWebサイト上のオンライン展覧会を企画し、広く皆様にご覧いただく機会を設けました。
本展は、昨年度に引き続き、写真家が本企画のために撮り下ろした作品を紹介します。原美樹子(1967-)は1930年代のドイツ製のイコンタやローライの二眼カメラなど、古い時代に製造されたフィルムカメラを手に、スナップショットの手法を用いて写真作品を制作してきました。
「できるだけ、透明な存在になりたい」と口にする作家が紡ぎ出すのは、私たちが日常の中で蓄積してきた記憶や身体感覚を翻弄する風景です。それはさながら、絶え間なく刻まれてゆく営みの傍らで、ささやかに在り続ける、言葉に置き換え難い何かを示唆しているのかも知れません。
今回、原は自身の日常の一片でもあった当館を訪れ、人と物、空間とが交錯し過ぎゆく姿を写しとりました。写真のそこここから音色が生じ、幾重にも連なりあうかのように、かつて在ったもの、いつか存在するであろうものが分かちがたく響き合います。
本展を通して、被災という出来事に触発されて新たに生まれる作品を多くの方に知っていただけましたら幸いです。最後になりましたが、本展の開催にあたり、多大なご協力を賜りました関係各位の皆様に深く感謝の意を表します。
2022年12月
川崎市市民ミュージアム