1章 線がつくる空間

一本の線を引くだけで、視覚的な世界はふたつに分かれ、「内と外」、「こちらとあちら」といった関係性が生まれます。線は造形の要素であると同時に、意味や構造、そして空間を生み出すための境界です。
線があることで、私たちは物事を認識し、位置づけ、意味づけることができます。造形の最も基本的な役割を担う線が、どのように空間を示し、形作るのか。ここでは、線によって空間が分かれたり、対象が区切られたりする収蔵品を取り上げました。

《100歳の絵日記》の直線や曲線を見てみましょう。丸や四角をかたどる線が組み合わさり、真っ白な画面に境界線が引かれて幾何学的なスペースが生まれました。
また、作家により修正液で黒い線が消された痕跡も見ることができます。黒線が消されたことで、さらに空間が広がっていくようです。

《100歳の絵日記》

《宙‘84 反核への証し》

版画作品である《宙‘84 反核への証し》。タイトルの「宙」は中心の丸い形を示しているのでしょうか。あるいは、宇宙や大きな天体を表現しているのかもしれません。作品に表されている線は、作家が彫った木の板の凹凸にインクをのせて紙に刷ったものです。その図像は反転しています。

白い線が黒色の背景をギザギザと繰り返し往復することで、いくつもの小さな「かたち」が生まれています。どこか揺らぎを感じさせる細長い空間が連なり、作品全体に独特のリズムが感じられるようです。

こうして見つめていると、宇宙空間やそこに浮かぶ天体といった広大な空間からその内側へ飛び込むような心地がしませんか?

あるいは、中央の黒いかたちが爆発する衝撃の波を感じ取れるかもしれません。

こちらの作品は《室内装飾業 アルティザン・モデルヌ(現代の職人)》です。
ベッドに横たわる女性のドレスやそばに立つ男性の衣服を示す黒線に着目できるように、画面の色を加工した短い映像を制作しました。
こうして線の色を変えて見てみると、本来作品が線に持たせている意味や造形から距離が生まれ、曲がりくねる線がつくり出す不思議な世界が目に入ります。

女性の胸元をじっくり見つめると、ドレスのフリルが全く別の空間として見えてくるかもしれません。

《室内装飾業 アルティザン・モデルヌ(現代の職人)》

《川崎都市計画街路網図》

《川崎都市計画街路網図》は川崎市の都市計画に基づき、国や自治体が管理する道路のつながりや位置関係を視覚的に示した図面です。私たちが日常生活で目にする地図は、目的地までの経路を確認したり、周辺の様子を把握したりするために使われることが多いでしょう。しかしここでは、そうした地図の本来の用途を一度忘れて、道路を表す線そのものに注目してみたいと思います。

赤色や緑色、黒色の線が複雑に入り組み、まるで蜘蛛の巣のような網目状の空間。規則正しく正方形や長方形が並んでいる部分がある一方で、不規則な図形が入り混じる場所もあります。線の密度が異なっているため、空間の疎密が生まれているのです。
線の組み合わせが生み出す面白いかたちを楽しんでみましょう。