ご挨拶
このたび川崎市市民ミュージアムでは「the 3rd Area of “C”―3つめのミュージアム―」として、「あっけなく明快な絵画と彫刻、続いているわからない絵画と彫刻」展を開催いたします。
近藤恵介と冨井大裕、二人の作家によって2010年に制作された作品〈あっけない絵画、明快な彫刻〉が辿った歴史をめぐる展覧会です。本作品は、冨井の作品をモティーフとし近藤が描いた平面4点と、近藤がすでに個展で発表していた作品を冨井が立体化した4点の全8点で構成されています。2013年に当館のワークショップにご協力いただいた作家の作品を集めた「シリーズ川崎の美術 響きあうアート」で展示し、このうち7点が2016年に当館に寄贈されました。
2019年秋、令和元年東日本台風によって被災した収蔵品に、この7点すべてが含まれています。地階の収蔵庫からは救出されましたが、浸水による直接的な被害のみならず、救出されるまでの高温多湿の環境によるカビが作品に甚大な被害を及ぼしました。
現代美術の修復は、前例があまりありません。処置内容や、今後長く保存するために必要なことなど、作家はもちろん、修復の専門家ともくり返し協議しながら、館内でできる限りの処置を施しました。
本展では、被災の痕跡が残る作品と、被災、修復、喪失から作品上で起こってしまった不可逆的な事象を通して、近藤恵介と冨井大裕が共作した作品をご紹介します。二人作家の共作というかたちではじまった作品群は、新たに石膏を使った4点と、平面2点、これに〈あっけない絵画、明快な彫刻〉を再構成したものを加えて、全11点の作品となりました。現在休館中の館内で展示したものをご紹介します。被災という歴史を経た作品の新たな展開をご高覧いただければ幸いです。
川崎市市民ミュージアム