ブルーノ・ムナーリ

MESSAGE_メッセージ 「ブルーノ・ムナーリ展」

ブルーノ・ムナーリの仕事をめぐって

岩崎 清(日本ブルーノ・ムナーリ協会


 今回の川崎市市民ミュージアムにおける「ブルーノ・ムナーリ」展のワークショップ参加者向けの展覧会ガイドには、ムナーリの最晩年の1995年にミラノに近い家具の町として知られているカントゥーで開催された「ブルーノ・ムナーリ展」のカタログの表紙が転用されて紹介されています。 そこにはブルーノ・ムナーリの七つの仕事があげられています。そして、この七つの領域を貫いているものは、次のように要約することができるでしょう。

 まず第一は、絵画やグラフィック作品、あるいは絵本、オブジェや立体作品などの二次元から三次元にいたる芸術的作品のなかにひそむ原理や要素を探り出したことです。

 第一の仕事とも関連してくるのですが、第二は文字言語と同じように、厳密さには欠けますが造形美術にも伝達力があり、それを視覚言語と考えて探求したことです。

 第一と第二は、緊密な相関関係があるので、容易に分けることが難しいのですが、第一では絵画・彫刻・グラフィックなどの領域に通底する原理を導き出して、それを易しい形態で表現するということです。線や色彩や形などの意味、それらで構成される画面とは何なのか。絵画を成立させている最低の規則性は何なのか。空間性や素材性などに支配される彫刻を規定しているものは何かなど、ムナーリは表現の領域を越えて探求を試みるのです。つまり、つまりムナーリは探求した原理や要素を作品として視覚化するのです。ですから、見る人はムナーリが試みようとした作品を通じて原理を理解し、アートの意味を知るようになります。

 視覚言語ということは、ムナーリのいろいろな仕事の中でもっとも比重を占めるものでしょう。造形美術的な表現が文字言語よりも豊かな内容を伝えることがあります。たとえば、それは似顔絵であり、犯罪者のモンタージュであったりすることを考えれば、造形美術が文字に代わって当該人物の特徴をより一層伝達できることが分かるでしょう。しかし、また造形美術だけでは伝えられないこともあります。

 1945年にムナーリが子どものために制作した絵本のシリーズ、その中でも「誕生日のおくりもの」には、視覚言語の重要さがきわめて適切に描かれています。ブルーノ・ムナーリは、文字言語と視覚言語、このふたつはお互いに意味を補完しあい、伝達する内容を豊かにすると考えていました。この研究は、ムナーリが1967年にハーバート大学から招聘されてカーペンターセンターで「デザインとヴィジュアルコミュニケーション」の関係の講義を行った時期から確立されることになります。この講義の成果はその後のムナーリの仕事に伏流することになります。  第三は、芸術家は、与えられた芸術家としての能力を自らの仕事だけの目的だけでなく、社会に還元することが、その急務であると考え、それを実行したことです。ムナーリはヴェネト州の小都会パディア・ポレジネで自然を観察し独学で芸術を勉強したために、芸術に囚われずまた芸術への偏見もありませんでした。天賦の才能を預かっている芸術家は、その才能を広く社会に役立てることは芸術家の役割だと理解していたのです。

 1938年の「機械主義宣言」では、機械に追い回されている人間を救済することが可能なのはひとえに芸術だけであり、その役割を担うのは芸術家の務めであると宣言しているのです。この理念的宣言の内容は、その後のムナーリの全作品に現れていて、終生変わらないものでした。

 そして第四は、子どもたちを「近未来の大人」と位置づけて、感性豊かな社会人を培うには幼児の時からの造形的な教育が欠かせないという観点から、子どものための造形プログラム、遊具、ワークショップなどを創案し、それを実行したことでした。幼児のころから、言葉を学ぶのと同じように視覚言語としての造形美術を学ぶことは重要であると考えていたのです。

 ムナーリが子どもの感性の開発の分野に強い関心を抱きはじめたのは1960年代の後半からですが、それはすでにかれの息子アルベルトの5歳の誕生日に絵本を制作したときから、予想されていたのです。上にあげた芸術家としての自己表現の追求、視覚言語としての芸術の役割、芸術家の社会的役割は、それらをすべて集約した形で、子どもの造形指導の領域へと流れこんでいくのです。

 芸術表現の探求から見いだした原理や要素を、分かりやすい形で「遊具」として結晶させたり、「ワークショップ」という活動の中で体験的に学習させたりしています。この展覧会の「アートと遊ぼう」というコーナーには、ブルーノ・ムナーリの子どものために捧げた造形思考が「遊具」として展示されています。  遊具ではありませんが、ムナーリの制作した数々の絵本も、視覚言語の探求の優れた業績として記憶されることでしょう。

 ここでまとめたムナーリの4つの仕事は、このウェブカタログの「ムナーリ50」で紹介している作品を鑑賞することで理解していただけると思います。