ブルーノ・ムナーリ
MUNARI50_ムナーリ50
このコーナーでは、こどもの城と日本ブルーノ・ムナーリ協会が所蔵するブルーノ・ムナーリ・コレクションから代表的な作品50点をピックアップしてご紹介します。
文 岩崎 清(日本ブルーノ・ムナーリ協会) + 有福 一昭( こどもの城造形事業部)
必要にかられて、人間が発明してきた機械には、わたしたちの日常や社会生活を豊かにするモノもあれば、人びとの心を圧迫するものもあります。そして、そうした機械の非人間的な側面をいくら否定しても、これらの事物は今の生活には欠かすことのできないものなっているのです。そのわけは、機械がさまざまな面で生活を便利にしたり、効率的にしているので、わたしたちはその合理性に支配されているからなのです。
ムナーリは、「機械主義宣言」の中で、機械が支配するいまの時代にわたしたちは機械の奴隷になるのではなく、その主人にならなければならない、そして機械の奴隷から主人になれるのは、ひとえに芸術家の働きによるのである、と宣言しています。機械にたいする諧謔とユーモアたっぷりの「役に立たない機械」や「不規則な機械」。「時間X」最晩年の作品「テンポ・リベロ」などに発明家としての反機械的な造形思考が鮮やかに表れています。
ブルーノ・ムナーリが他のアーティスト比べて特徴的な点は、発想や表現が従来の造形美術の様式や枠組みに生涯捕われなかったというところにあります。その理由は、ムナーリが6歳から20歳前後まで過ごしたヴェネト州のバディーア・ポレジネで、川の渦巻く水流の動き・水車の回転運動・樹木の四季・動植物の生態など自然を教師として独学でモノの見方を学び、美術的な感受を磨きあげたからです。いわゆるデッサンからはじまる伝統的な美術教育の影響をうけませんでした。そうした自然の観察からえた感受性のおかげで、従来の美術に捕らわれず科学的・生物学的な着想が自由にできたのです。それがムナーリの独特な作品を形成しているのです。またムナーリは文字の世界に法則があるのと同じように造形芸術を支配する視覚的な文法があると考え、それを生涯かけて絵本・彫刻・平面作品などの中で説き明かし、視覚言語の意味と大切さを探求しました。
ムナーリは生涯にわたって、さまざまな分野にわたる本を書いています。内容からみれば、子どもたちの造形美術の感性を育む本、子どもたちのための絵本、大人たちを対象にした造形美術の本、子どもの美術に携わっている大人たちのための啓蒙的な指導書、アーティストとして制作した実験的な本などがあります。どれ一つとってみても、創意と実験的な試みに満ちていて、ムナーリほどたくさんの本を書いたアーティストはほかには見当りません。そして、これら多種多様に見えるたくさんの本を作りましたが、そこには通底していることがあります。ムナーリが本という形式を通じて読者に伝えたかったことは、文字言語と同じように色や形や線で構成されている美術的な表現にも視覚的な約束事や原理があるということでした。美術作品やオブジェの制作には数の制限がありますが、ムナーリには本という形式は自らの造形思考を人びとに広く伝える媒体でした。
ムナーリは、プロダクトデザインをする時に、当時、最も新しく大量生産が可能で安価な素材を積極的に取り入れて実験的なアイデアを実現しています。その素材の特性を最大限に生かすために、ムナーリはデザインをするだけでなく、その工場に足を運びさまざまな実験を繰り返し、職工、職人などと何度も試作を重ねてプロジェクトを実現させています。それは、デザイナーと企業が対等な立場から製品の開発に関わり、消費者である一般市民にできるだけ安価で質の良いものを提供するという理想から生まれた必然と言えるでしょう。そうした結果、ムナーリのプロダクト作品は、どれをとってもあたたかい質感、独特の美しいフォルム、そして使いやすい機能をそなえているのです。
そうした作品には、車の座席などに使用されている素材フォームラバーを使った子どもの玩具「小ざるのジジ」やストッキングに使われる伸縮性のあるニット素材を用いた光の彫刻といってもさしつかえのない照明器具「フォークランド」などがあります。
ムナーリは、1930年代からさまざまな雑誌、本などのグラフィックデザインの仕事をしています。彼の制作活動の中で一番多くの割合を占めたのがグラフィックで材員の仕事と言えるでしょう。しかし、ここでも他の活動と同様に、さまざまな実験的な仕事をしています。たとえば、「カンパリ」という大変良く知られたお酒の会社のロゴタイプを切りつめたり、隙間をあけたり、他の字体をコラージュしたり、コピーでわざと文字をゆがめるなどのいろいろな技法を駆使して、その意味が読みとれるぎりぎりのところまで、可能な限り、文字のデザインを試みています。また、雑誌や本の表紙などでは、赤、黄、みどり、青など純色を配した色相環のグラデーションや補色を巧みに使って、読者の目をひきつけています。
今回の展示では、「カンパリのロゴ」の他に数多くの絵本や著作、1960年代に出版された「今月の1冊」シリーズの本の表紙やイラストレーションなどがあります。
ムナーリは、子ども一人一人の力量の差異にこそ子どもの表現の個有性があると考えていました。子どもたちの好奇心をかきたて造形表現の世界へ無理なく誘導するムナーリの方法は独特で、それが彼のワークショップの特徴です。それは、子どもたちが遊び感覚でアート体験をしながら造形美術の原理や要素である色、形、線、テクスチャーなどを学ぶことができるように構成されています。1970年代から子どものためのワークショップを開催しはじめ、ミラノのブレラ美術館のワークショップでジョヴァンニ・ベルグラーノとともに「アートとあそぼう」の方法を確立しました。そして、1985年東京こどもの城での「ムナーリ展」ではその集大成ともいえる7つのワークショップを開催しました。
ムナーリが作家として、近未来の大人である子どもたちの豊かな感性を培うために、文字言語と同じく視覚言語の重要性を体験を通じて伝えようと試みたのがワークショップであり、一連の遊具なのです。

